2025年3月活動報告
- HM MH
- 4月7日
- 読了時間: 5分
2年ぶりにCHISEのスタディツアーに参加し、自分の研究調査も兼ねてルアンパバン県の6つの村を訪ねました。
1.訪問の目的は3つありました。
1)これまで建設した5つの校舎が有効に使われているかモニタリングすること
2) 新し支援地を探すこと
3) 中退が増加している村々で「学校に行けない子どもたち」が生きていくためにどのような職業教育やスキルの伝授がなされているか聞き取りをすること
2.それぞれの目的に関する現地の状況
1)校舎のモニタリング
これまで建てた校舎(小学校4校、幼稚園1校)は丁寧に使われており、子どもたちの元気な姿を見ることができました。
以前の校舎の跡(P村) 現在の校舎
他の村の写真についてはCHISEのインスタグラムをご覧ください。
山岳地帯の校舎は様々な国際協力プロジェクトにより整備されつつあります。しかし、教室内の様子は私がラオスの研究を始めた1998年とあまり変わりません。教科書も届いておらず、教室の机・椅子が古いままで教材も揃っていません。もちろん村には電気も水もWifiも通っていません。教員を雇う予算がないため、幼稚園の校舎があっても開校されていなかったり、ボランティア教員が教えたりしています。
正式に雇用されている教員さえ給与の遅配が続いており、教員として働くモチベーションを失っている様子でした。訪問した村全てでインタビューをしましたが、待遇の悪さから、生活苦のために離職する教員がいたり、教員養成学校に行きたいという生徒はほとんどいませんでした。そのような中で熱意を持って教え続ける先生方には頭が下がりました。
教育機会に恵まれない少数民族の子どもたちは公用語のラオス語さえ話すことが難しく、教科書も絵本もない中でラオス語を覚えようと必死です。一方、首都の学校は立派なコンクリート造りで教科書も揃っており、ICT教材を駆使した教育支援がなされている学校もあります。これは同じ国なのかと疑うと同時に大きな格差を目の当たりにしました。
2)オンライン視察、コーディネータによる聞き取り
2024年10月にオンライン視察を行ってから、CHISEはルアンパバン県ポンサイ郡のH村を支援の候補地にしていました。この村は、2024年8月、9月の洪水で校舎に水が侵入してしまい、危険な状態で使い続けています。CHISEはこの状況を受け、現在とは別の安全な場所に高床式の校舎を建設し直すことを予定しています。今後、幅広く募金等を計画しています。ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
洪水で柱が曲がった教室 天井まで浸水し利用が危険な状況
3) 中退の増加と「学校に行けない子ども」への教育
ラオスでは国全体で中等教育(特に高校)の中退率が増加しています)。活動地のルアンパバン県では高校1年生の中退率が20%以上にのぼり、深刻な問題と捉えられています。その理由は家庭の貧困、高校までの距離の遠さ、保護者の理解不足など多岐にわたりますが、継続的なインフレーションが貧困を招き、一刻も早く労働力を必要とするために中退することが分かりました。現在でも女の子は15歳くらいで結婚し、学校を辞めるケースが見られます。私が10年以上知っている村の女の子が村からいなくなっていたので聞いてみたところ、結婚していました。
幸せそうな写真が送られてきましたが、まだ子どもです。学校に行けないのではなく、行かないのでは?という疑いが生じてきました。
ラオスの大学は近年、定員割れが続いています。それは貧困に加え、大学での知識が雇用や現金収入に直接結びつかないためです。産業が限られている国土で雇用を創出することは容易ではありません。大学に行く予定がないため、高校を終了しても意味がない、高校の勉強も就業のためのスキルや現金収入に繋がらないと考え、早々と高1で退学してしまうのです。現地調査では、退学した「学校に行かない子どもたち」のために、中等教育卒業資格が取れる補習コース、職業訓練プログラムなどが提供されていることが分かりました。
しかしながら中退当事者は学校に戻ることや職業教育を受けることを望んでいませんでした。目の前の貧困から逃れるために一刻でも早く働きたいと考えているのです。山岳地帯では多くの生徒が教育から置き去りにされていること、生きるために働かざるを得ないという事情が浮き彫りになりました。
調査前、「学校に行けない子ども」には現金収入につながる職業教育が大切だと考えていましたが、その結果は見事に裏切られました。中退した生徒たちはほとんどが季節労働者となり、県や国境を越えて農業に従事したり、コールセンターで働いたりしていました。特別なスキルを必要としない現場で、ただただ言われた通りに働いて現金を得るというのが現実です。現在はSNSの影響で雇用情報もすぐ手に入ります。インフレが進行し物価高が止まらない中で、学校に行くより働くことが優先される、SNSの影響により今まで想像もできなかった仕事に就いてしまう…それには危険も伴います。高1で退学する理由には「働くことができる年齢になったので今辞める」という決心が込められているようです。「学校に行かない」と選択した子どももまた、取り残された存在なのです。教科書で勉強もできず、教育に意義を見出せないまま巣立っていしまっていいのでしょうか。
このように、現実に起こっている問題を掘り起こし、当事者の声に耳を傾け、そこから目を逸らさず、本当に必要な所に支援が注がれることが大切だと身をもって感じました。
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